研究内容
I. 癌間質を標的とした抗がん治療法の開発
テネイシンとは
細胞外マトリックスの一つであるテネイシンは、神経細胞の移動や増殖など、発育中の多くの器官の上皮-間充織間の間質に現れる物質として1980年代に発見された糖蛋白質です。その後、癌の周囲や胎児期に発現する特徴があることや、創傷治癒過程にも強い発現が見られることから、組織の再構築過程において重要な役割を担う分子として注目されてきました。多くの癌細胞は、この分子を産生し、特に悪性度の強い癌ほどその発現が強く、転移との関連を示唆する論文も発表されていることから、癌の予後を推測させる因子とも考えられています。また、癌患者さんの血中にはこの分子が増加している傾向があることから、癌の診断マーカーとしても重要であると考えられています。また、他の疾患においてもテネイシンの発現動態が病気と相関している例が報告されています。
テネイシンを標的とした癌治療
生体を構成する細胞は、常に互いにコミュニケーションを行ってその機能を果たしています。癌細胞も例外ではなく、周囲の正常細胞や細胞外マトリックスという微小環境によって増殖・成長が維持されているのです。当社の癌治療法の標的は、この初期の癌細胞の微小環境制御に関連したもので、抗体を用いたものであり、極めて副作用が少ないと予想されます。現在までに、マウスの乳癌の肺転移モデル系を用いた前臨床基礎試験では、移植原発巣の成長を50%抑制するとともに、癌の肺転移を100%抑えるという結果を得ております。また、当社は、一つのテネイシン分子内の異なった部位のみを認識する単クローン抗体を用いて、癌の転移抑制の動物実験を行っております。その結果、多くの単クローン抗体はテネイシンの異なる部位を認識し結合するにもかかわらず、原発癌の増殖を同様に抑制することが観察できました。そして、テネイシンのある特定の部分を認識する単クローン抗体は、原発癌の成長だけではなく転移をも抑制することを発見したのです。組換えテネイシン分子を用いた検証では、その抗体はテネイシン機能の重要なポイントを認識することによって、テネイシン機能を中和する抗体であることが示唆されております。この「ある特定の部分を認識する単クローン抗体」を用いた抗体医薬品により癌細胞の増殖・転移を抑制する癌治療を実現いたします。